2019年度実施 沖縄県公立学校教員候補者選考試験 合格体験記 中高共通美術

1「はじめに」

 今年度、私は教員採用試験受験資格最後の45歳での合格でした。以前、受験資格が35歳までだった頃の受験で、一度だけ一次試験を突破した経験がありましたが、最後の年の受験も順位があと1人の差で最終試験も受けることもできないままに年齢制限により受験資格を失う経験をしました。それから数年間別の職業についていましたが、受験資格年齢の引き上げがあり5年前に教育現場に復帰しました。二年間は採用試験のことは考えられずにいましたが、久しぶりに味わう教員の仕事の充実感や満足感を感じ「本採用を諦めずに最後までやりきってみよう」と考えるようになりました。
 このような経緯のため「5カ年経験者の教養試験免除」は最後まで適用外でした。再び教員採用試験に挑戦するにあたり、まず過去に通っていた塾の資料を探し出したり、市販の参考書などを頼りにしたりして、試験の勉強に取り組みました。2年連続一次・二次は合格することができましたが三次試験で涙を飲みました。
 今年度、2度目の受験資格最後の年を、臨任をせずに試験のみに集中するべきかとても迷いましたが、先輩からの助言などもあり、高等学校での臨任をしながらの受験を決意しました。
 友人の紹介からこの沖縄教員塾のことを知り、塾生には多くの国語科の受験生が論文指導を受けていること、さまざまな校種・教科の方や管理職受験の先生方もいらっしゃることを知りました。少し怖気付きそうになりましたが、最後の受験を後悔したくないという気持ちで、この沖縄教員塾への門を叩きました。
 入塾してから気が付いたのですが、塾生の中で中高共通美術での受験生は私だけでした。結果的にそのことが、今年度半数近くまで最終合格者が減少した中高共通美術の採用試験で、他の受験者との差となり、合格することができたのだと感じています。
 これから採用試験に向かうみなさんに、この私の体験記が少しでもお役にたてればと思います。

2「一次試験」

【一般教養】

 一般教養の対策は基本的に沖縄教員塾のテキストを解き、理解できていない箇所は上高先生のテキストの解説を読むことで対策しました。

【教職教養】

 一次試験の対策では、塾の毎回の模擬試験で提示される塾生全体での平均点にもなかなか達することができず、「このままの学習方法ではいけない!」と反省することができました。初心に帰り、学習方法を見直し、暗記のコツや学習方法が書かれた書物を読み漁ることから始めました。
 沖縄教員塾では携帯の使用は禁止で、調べたい箇所はキーワードが掲載された『教育用語の基礎知識』という用語集を手元に置き検索しました。そのことが人物名や名称を用語集のどの辺りにどの順番に掲載されていたという形での記憶となり、暗記がとてもはかどりました。
 仕事終わりに一息つくとなかなか学習に向かうことができない自分の性格を理解し、早朝のファーストフード店での学習や仕事終わりのファミリーレストランなどで学習をしました。
 沖縄教員塾のテキストは、1冊読み深め問題を解いていくと自動的にフィードバックしながら学習ができる仕組みなど、さまざまな工夫が施されていると思います。上高先生の長年の経験と莫大な資料の量があってこそのテキストだと感じました。
 ガムシャラにテキストに取り組み、やっとの思いで塾での平均点を超えることができた時には、効率よく内容が理解できる、塾でのテキストを活用した学習が私の本当に力になることを実感することができました。
 得点が悪い時には塾の帰りにもテキストと向き合うこともありました。結果としては、これまでの受験と一次試験での得点は大きくは違いませんでしたが、専門教科を難しく感じた今年度の受験の中で教職教養がフォローしてくれる形となり一次試験の得点UPとなりました。

【専門教養】

 専門教養の対策では、まず普段の授業で使用している美術の教科書の範囲を学習することはもちろんのこと、中学校の(中学校勤務の方は高校の)教科書を購入して対策にあたることをお勧めします。二次試験での「色彩構成」や三次試験での「模擬授業」などでの出題はこれまでほとんど中学を想定した出題です。
 職場の学校への行き帰りの高速道路での移動時間にYouTubeなどを活用して日本のアーティスト・世界のアーティスト、美術の歴史の変遷など、教科の専門知識を深める学習を行いました。デメリットと感じていた通勤時間が「どんなに忙しくとも毎日往復で1時間半ほどの学習ができる環境」となるようにしました。
 美術の専門教養に関する書籍は少ないので、数年分の教員採用試験の過去問題を活用したり、生徒の受験対策指導も兼ねて琉球大学教育学部のHPより美術の過去問題を数年分プリントアウトしたりして、対策しました。また、「美術検定2級・3級」の参考書なども活用して対策し、なるべく多くの問題に触れる努力をしました。
 今年度は出題がありませんでしたが、写真家に関する対策は『日本写真史1945~2017 ヨーロッパからみた「日本の写真」の多様性』という書籍を活用し、さまざまな写真家の作品の特徴や時代背景などを学習しました。今年度多くの出題のあった沖縄の画家・作家に関する対策は、沖縄県立美術館・博物館のHPを活用し、著名な人物をピックアップしてインターネット検索し対策しました。

3「二次試験」

【デッサン】

 私は、芸大の出身なのでデッサン力にはある程度の自信もあったので、採用試験に向けてのデッサン対策はあまりしていませんでした。
 唯一行なったデッサンの対策は、実際の授業の中や芸大受験対策の生徒のデッサン講座で描いた参考作品だけでした。ちょうど授業の中で生徒に指導した「自分の利き腕ではない方の手を描こう!」という授業を行っていたので、受験本番とほぼ同じ内容の参考作品デッサンを描けていたのは幸運でした。
 当然ですが、出題者の意図を読み取って描くことは、他の試験科目と同様に必要だと思います。試験当日には、試験官の机の上を観察しておくと試験開始前からモチーフを予想できることがあります、時間をかけて奇抜な構図で描こうとするよりも、シンプルであっても出題意図を意識した構図を手早く組むことが、重要だと思います。意外なモチーフが出題された時でも自らの画力を信じて落ち着いて描きましょう。

【色彩構成】

 二次試験対策は沖縄教員塾ではなく、中部地区の芸術大学受験対策の塾で高校生たちに混ざりながら、色彩構成の実技試験対策やそれに伴う授業計画などの対策をしました。
 二次試験合格者も半数程度と少なくなっていた今年度の受験の中で実感したのは、沖縄教員塾で学習した教職教養の流れや知識などが、美術の指導案を作成する際にも底力になっているということでした。
 これまでの採用試験では、中学を想定した出題がほとんどです。中学の教科書などを参考に十数本の授業を考えてイレギュラーな出題にも備えました。私は高校での勤務経験しかないので、中学での勤務経験のある先輩などからのアドバイスがとても助かりました。現在の中学では美術は2時間連続では行われていないこと、高校での美術と授業時間が違うことなども、その際に初めて知りました。

4「三次試験」

【論文】

 三次試験で再び沖縄教員塾での対策に戻った頃には、この塾での学習に迷いはありませんでした。これまで一番苦手に感じていた論文対策に一心不乱に取り組みました。最初は1つの論文を書き上げるにも8時間以上もかかりましたが、塾の最前列の席にしがみつき論文を書き続けました。
 少しずつ論文を完成させるまでの時間も短くなり、3本目の論文を書き上げた時に、初めて「A評価」をいただくことができた時の嬉しさは忘れられません。
 論文も10本目くらいまで書き上げた頃に上高先生から「塾の最前列にかじり付き、論文を書く受験生わかりますか? あの人は今年が最後の採用試験です。あのぐらいの必死さを持って取り組んでください。」と他の受験生に紹介したと言われました。嬉しいやら恥ずかしいやらの複雑な気持ちでしたが、私のこの塾での努力が認められたと実感できました。その自信が仕事で疲労困憊した日にも論文の対策に向かう気力となり、最終的に13本の上高先生からの論文課題すべてを書き上げることができました。そして、その努力が通じたのか今年度の三次試験本番の論文課題には、12本目くらいに書き上げた上高先生の予想問題そっくりの課題が出題されていました。一度書き上げたことのある論文に気持ちの余裕をいただけたことが、その後の「面接」や「模擬授業」によい影響を与えてくれたように感じました。

【面接】

 これまでの受験ではほとんど面接の対策を行わずに三次試験に挑んでいました。しかし「最高齢での受験生だけど、美術の受験生の中で一番大きな声で面接をして、一番元気があると思われる一番印象に残る面接をしなさい」という上高先生のお言葉を胸に、今年度は職場での練習も何度も行いました。
 沖縄教員塾での模擬面接は、実際の面接を想定してスーツ姿で行います。本番さながらの緊張感のある面接を何度か行なっていたので、本番での緊張が軽減されました。しかも、これまでに合格された塾のOBも面接官役として指導してくださります。他では体験できない質の高い面接指導だったと思います。
 特に私の場合は、OBの方の一人が偶然大学の後輩でした。学生時代を知るその方の「コンパクトでインパクトのある応答」「〇〇さんらしく」というアドバイスを意識して本番に挑みました。また、上高先生からいただいた「最後の受験を後悔のないように、自分のことを全部を伝える」ことにも注意して面接練習を積み重ねました。とても悩んだ今年度の学校現場での勤務しながらの受験でしたが、職場の先生方から多くのアドバイスをいただくことができたことや、本番での面接の「場面指導」の際に、現在受け持っているホームルームの生徒の名前と顔を思い浮かべながら行うことができたことが、私に多くの力や勇気を与えてくれました。

【模擬授業】

 今年度勤務している学校の生徒に採用試験を受けていることを伝え、準備した授業を実際に生徒の授業で行いました。そうすることで道具使用時の安全指導や机間指導のタイミング、板書計画などにリアリティーが出たと思います。生徒にアンケートにも協力してもらいました。生徒目線からのコメントや感想が見られたのも、とてもよい経験でした。
 校種によって違いはあると思いますが、「美術」は特に他の美術の先生の授業を見る機会が少ないと感じます。中・高のさまざまな先生の授業を見る経験ができたなら、教員採用試験でも、今後の授業でも生きてくると思います。
 私は、これまでの受験で模擬授業を「高度でオリジナリティーのある授業」にしようと必死になってしまったことが前年度までの失敗につながったと実感しています。
 そのため、今年度は「中学生にもわかりやすい楽しい授業」を意識しました。そんな中、三次試験対策で一緒に対策に取り組んだ、特別支援学校の先生方の授業をはじめて観察させていただいたことが、私の 模擬授業の意識改革につながりました。「格好よくて高度な授業」だけが必要なのではなく、「わかりやすくて楽しめる」そんな授業が実際の授業でも必要なのかもしれませんね。
 模擬授業の本番でも、担任をするクラスの生徒を想定しながら行いました。いつもの生徒のおしゃべりがはじまるタイミング、ほめるとやる気を出す生徒などを想定しました。実際のクラスの生徒の顔や声、座席などを思い浮かべながら、実際の生徒の名前で声かけを行い、授業を行うことで、自然と教室全体に目を配ることができ、「発問」を多く盛り込んだ授業を行うことができた実感がありました。
 自らの専門性や知識を観せる授業ではなく、生徒も教師も笑顔で学べるコミュニケーション豊かな授業を行うことが大事だと実感しました。

5「その他」

 毎年感じることですが、受験生の中に携帯のマナーや服装容儀のふさわしくない方をみると悲しい気持ちになります。でも、それは過去の自分自身にも言いたいことなのです。臨任を始めたばかりの頃、作家活動やアーティストへの夢があり、教師になる決意も不十分なまま採用試験を受験していました。私も私服で実技試験を受けたことがありました。携帯電話の電源をしっかりと切ったことを確認していたのにアラームの設定を消しておらず、音を鳴らしてしまったこともありました、その時に同じ場で受験されていた方々には本当にご迷惑をおかけして申し訳ないという謝罪の気持ちでいっぱいです。
 振り返ってみると、やはりあの頃の私は教員にふさわしくなかったのだと感じます。「本気で教師になりたい!」そう決意することができなければ、行動や身なりの端々に自然と現れるのかもしれません。みなさんも私のような後悔はしないでください。まず、実際に生徒の顔を思い浮かべ、一生涯この子たちと向き合うという覚悟を持つことから試験対策を始めることが重要だと思います。
 私がこれまでに出会った先輩の先生方が口を揃えておっしゃるアドバイスには「採用試験の本番で生徒の顔が浮かんだ」「あの子たちのためにも自分が教師にならなくて誰がなる!」という言葉です。私も、これからの教員人生で、誰にも負けないほどの生徒への教育的愛情を持って取り組んでいく覚悟です。

6「おわりに」

 最後に長年に渡る教員採用試験を終え、感じることをいくつか書かせていただきます。

① 「塾での対策なくしての合格は稀。」

 塾での対策をためらう時、金銭的・距離的・時間的な制約や臨任・時間講師などを多く経験したが故のプライドなどのさまざまな理由があると思います。私自身もこれらの理由が邪魔をして、入塾をためらい自力で教員採用試験の対策をしていた頃があります。ですが、上高先生の長年の経験から生みだされたテキストの数々や対策方法などのアドバイスなどを思えば、自分だけの力で迷いながら失敗を繰り返す試験対策や参考書選びは金銭的にも時間的にももったいないと思います。
 「沖縄教員塾」は文字通り教師を教育してくれる塾です。長年臨任を経験すればするほどわからないことを質問することが難しくなります。そして、普段生徒に指導をしている自分が指導される立場になることが難しくなります。
 入塾当初、上高先生から「ギリギリのホームランを目指すのではなく場外ホームランを目指しなさい」と言われたことがありました。採用試験での合格だけが目的ではなく、今後の長きに渡る教育人生を想像できるなら、この塾でもう一度「生徒の立場」に立ち戻り教育を受ける側を経験してみてください。沖縄教員塾は先生を教育してくれる先生のいる塾です。私は最高齢合格ですが、今年度ほど採用試験を通して自分の教育方法に成長や変化を感じられたことはありません。

② 「合格体験記や採用試験の報告を大切にすること」

 今回の採用試験でとても実感したのは、これまでに合格された沖縄教員塾の先輩がたの「合格体験記」や「試験報告」などを基に心構えができたことへの感謝です。
 実は、私は以前の二次試験・三次試験の体験記を報告する際、少しでも早く提出しなければと焦り、しっかりとまとめ上げる前にとりあえずの報告をしてしまいました。後日改めてしっかりと仕上げて提出するつもりではあったのですが、提出直後に上高先生から叱られました。叱られ慣れていない私は悔しさでいっぱいになり自分が情けなく感じました。
 しかし、冷静になり先輩方の体験記を読んでみると、これまでの先輩塾生の書いた文章からは、これから採用試験に取り組む未来の塾生に向けたたくさんの想いが詰まっていることに気がつきました。
 今、こうして合格して体験記を書きながらそのことを思い出し、私の長きに渡った採用試験の経験が、少しでも役に立てていただけたらと感じています。正直に言って、これらの資料を採用試験の対策に取り組みながら書き上げるのは大変です。ですが、試験当日にも、これから受験される方のために少しでも状況や情報を伝えようと考えることで緊張が和らぎ、落ち着いて状況判断・把握ができます。
 どうかこれから受験される先生方にも沖縄教員塾の「思いやりの言葉」のバトンを繋いでいって欲しいと感じています。
 35歳で一度諦めた教員への夢が叶い嬉しい反面、なかなか合格の実感が湧かないというのが正直なところです。当然ですが、採用試験を終えた今でも自らの未熟さを感じることも多くあります。採用試験の本番で、すべての試験科目で100%成功したという人は少ないのではないでしょうか。私が過去の三次試験で結果が出せなかった理由として、私自身の「心の弱さ」が原因だったと実感しています。体調不良があった年も、模擬授業や論文でうまくいかなかった年も、その失敗を引きずってしまい、その後の試験で崩れてしまいました。試験を終えて冷静になり、最終の順位や得点を確認してみると、そのような失敗をした年の受験でも合格者との差に驚くほどの開きはありませんでした。長丁場の試験です。思ったようにできなかったことや失敗したことを悔やむよりも、最後まで気持ちが折れないことが大事です! 自分自身を信じて、生徒を感じて、頼れる塾をみつけることができたなら、きっと結果がついてくると思います。

 長文を最後まで読んでいただきありがとうございます。私がこれまでの合格者の方々の体験記から力をいただいたように、私の体験記も受験生のみなさんのお役に何か少しでもたてたなら幸いです。